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第93回 インマヌエル

聖書=マタイ福音書1章18-25節

イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。ヨセフは眠りから覚めると、主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名付けた。

 

 今回は、前回と同じ聖書個所からお話しいたします。今年、2020年はたいへんな年でした。新型コロナウィルスの感染禍で歴史に残る年となりました。日本中の人たち、世界中の人たちが苦しみに遭いました。病む者を訪ねることも出来ず、親しい者の看取りさえ出来ないこともありました。仕事を失い、生活に困窮し、前途に悲観し死を選ぶような人たちも増えてきていると言われています。

 その中で、まもなく、わたしたちは「クリスマス」を迎えようとしています。神の御子が人となられ、イエス・キリストとしてこの地に誕生されたことの記念日です。この時、わたしたちは「メリー・クリスマス」と言って、贈り物をして祝うのです。クリスマスは「祝祭」です。「メリー」とは、本来、陽気に活発に喜び祝う言葉です。しかし現在、コロナ禍の中で、わたしたち素直に「メリー・クリスマス」と喜び合うことが出来るでしょうか。頭を抱えてしまいます。

 しかし、このような時でも、むしろ、このような時こそ、「メリー・クリスマス」と言っていいのです。苦しみの中でこそ「メリー・クリスマス」と語るのです。上記の聖書個所は、クリスマスの出来事、イエス・キリストの誕生を物語ります。その中で「インマヌエル」という言葉が出てまいります。主の天使は、こう言います。「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。この名は、『神は我々と共におられる』という意味である」。この「インマヌエル」という言葉に集中します。

 「インマヌエル」とは、男の子の名前ではありません。「インマヌエル」とは、「神が、共にいます」という意味のヘブライ語の言葉です。クリスマスの出来事の内実を示す言葉です。イエス・キリストの誕生は、最も簡潔に言えば「インマヌエル」なのだと言っていいでしょう。誰かと共にいる。これは愛と保護の姿形であると言っていいでしょう。神によって造られた人は、神に背き、罪を犯し、堕罪して、神によって楽園から追放されました。罪人となった人間は、もはや神と共に歩むことは出来なくなってしまいました。罪によって、神と共にあることが隔てられてしまったのです。そして、神から離れた人間の傲慢と手前勝手が、争いや戦いを生み、病を引き起こし、貧しさをもたらしました。苦悩に満ちて生きることとなったのです。

 しかし、神は、このような罪人となったわたしたち人間を、再び神と共に生きることのできる道を開いてくださいました。旧約聖書には、神が人と共にいてくださるという約束に満ちています。イザヤ書41章8-10節「わたしの僕イスラエルよ。…わたしはあなたを固くとらえ/地の果て、その隅々から呼び出して言った。…わたしはあなたを選び、決して見捨てない。恐れることはない、わたしはあなたと共にいる神。たじろぐな、わたしはあなたの神。勢いを与えてあなたを助け/わたしの救いの右の手であなたを支える」。

 神から引き離されたわたしたちが、もう一度、神と共に生きることが出来る。これが「インマヌエル」の出来事なのです。この「共にいてくださる」ということは、かりそめのことではありません。一時的なことではありません。目に見えない永遠の神が、へりくだって、人と共に住む神となってくださった。これが一人の人間において実現したのが、イエス・キリストの誕生です。神の愛の贈り物と言っていいでしょう。

 ヨハネ福音書1章14節に「言は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た」と記されています。イエスは、わたしたちと同じ肉体を採って、人間の歴史の中に住み込んでくださいました。そして、この出来事によって、神はわたしたち一人ひとりに「わたしは、あなたと共にいる。もうあなたは一人ではない。わたしはあなたを愛している」と告げてくださったのです。

 苦しみ悩む時にも、孤独である時にも、主イエス・キリストはわたしたちと共にいて、愛と保護とをしっかり与えてくださいます。「インマヌエル」とは、わたしたちが神の愛を確認し、神と共に生きる者とされている事実を示す言葉なのです。クリスマスを迎える時、わたしたちを愛する神の臨在に気づいて、キリストを受け入れ、キリストと共に歩んでまいりたいものです。