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第33回 お言葉をください

聖書=ルカ福音書7章1-10節

イエスは、民衆にこれらの言葉をすべて話し終えてから、カファルナウムに入られた。ところで、ある百人隊長に重んじられている部下が、病気で死にかかっていた。イエスのことを聞いた百人隊長は、ユダヤ人の長老たちを使いにやって、部下を助けに来てくださるように頼んだ。長老たちはイエスのもとに来て、熱心に願った。「あの方は、そうしていただくのにふさわしい人です。わたしたちユダヤ人を愛して、自ら会堂を建ててくれたのです。」そこで、イエスは一緒に出かけられた。ところが、その家からほど遠からぬ所まで来たとき、百人隊長は友達を使いにやって言わせた。「主よ、御足労には及びません。わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるような者ではありません。ですから、わたしの方からお伺いするのさえふさわしくないと思いました。ひと言おっしゃってください。そして、わたしの僕をいやしてください。わたしも権威の下に置かれている者ですが、わたしの下には兵隊がおり、一人に『行け』と言えば行きますし、他の一人に『来い』と言えば来ます。また部下に『これをしろ』と言えば、そのとおりにします。」イエスはこれを聞いて感心し、従っていた群衆の方を振り向いて言われた。「言っておくが、イスラエルの中でさえ、わたしはこれほどの信仰を見たことがない。」使いに行った人たちが家に帰ってみると、その部下は元気になっていた。

 

  今回は、この聖書箇所から主イエスの御言葉の力についてお話ししたいと願っております。イエスはガリラヤ湖畔のカファルナウムの町にお帰りになりました。カファルナウムは湖畔の風光明媚なところで交通の便もよく、ローマの軍隊が駐屯していました。百人隊長はローマ軍の士官です。この百人隊長はユダヤ教の会堂の礼拝にも出席していたようです。

 百人隊長は「部下が、病気で死にかかる」と、イエスに助けを求めました。この「部下」とは百人隊長の個人的な世話をするためのしもべ・奴隷で、百人隊長が「頼みにしていた大事な人」でした。ローマでは奴隷は生ける道具、物として扱われ、病気や年をとって役立たなくなったら犬や猫を捨てるように捨てられました。しかし、百人隊長はしもべを大切に扱いました。重い病気になっても見捨てません。

 イエスがカファルナウムに来たことを知り、彼は「ユダヤ人の長老たちを使いにやって、部下を助けに来てくださるように頼」みました。ユダヤ人の長老たちも快く請け合い、イエスも快く受け止め「一緒に出かけられた」。ところがイエスが自分の家に来てくれると聞くと百人隊長は慌てて「主よ、御足労には及びません」と言わせた。当時のユダヤ人と異邦人との交際の実際を知っていたからです。ユダヤ人は異邦人の家に出入りしたら、その日一日夕方まで汚れるとされていました。イエスをそんな目に遭わすことはできない、と考えたのです。

 それでは、百人隊長はイエスに何を求めたのでしょうか。お言葉を求めたのです。「ひと言おっしゃってください。そして、わたしの僕をいやしてください。わたしも権威の下に置かれている者ですが、わたしの下には兵隊がおり、一人に『行け』と言えば行きますし、他の一人に『来い』と言えば来ます。また部下に『これをしろ』と言えば、そのとおりにします」。

 イエスはこの言葉を聞いて非常に感心して言われます。「言っておくが、イスラエルの中でさえ、わたしはこれほどの信仰を見たことがない」。イエスに「これほどの信仰を見たことがない」と言わしめた信仰とは、どういう信仰だったのでしょうか。

 第1は、へりくだりです。へりくだり・謙遜とは、道徳的な在り方と理解されます。しかし、聖書では「へりくだり」は信仰的在り方です。わたしは、ユダヤ人のためにいろんな奉仕をした。だから助けて貰って当然と胸を張るのではなかった。自分は救いを受ける値いしない者ですという罪人の自覚です。へりくだりは罪の自覚と深く関わるのです。

 第2に、イエスの御言葉の力を認めたことです。百人隊長は言葉の力というものを軍隊の中で会得したようです。軍隊は上官の命令が力を持つ世界です。隊長の命令は皇帝の権威によって裏付けられて実行されます。百人隊長はイエスが「救われよ」、「いやされよ」と言えば、その通りになると確信した。ここにキリストのお言葉の力に対する信頼があります。これが信仰です。キリストのお言葉は必ず実現し成就するという信仰です。

 この信頼の奥に深い洞察に基づく信仰があるのです。百人隊長はイエスの中に神を見ていたと言っていいでしょう。主イエスが、神共にいますお方であることに気付いていた。お言葉の力への信頼とは、その言葉を語られたお方と切り離しては考えられません。イエスを神と信じるところで、イエスのお言葉は、今日のわたしたちに対しても同じように力を振るって、わたしたちをいやし、生きる力を与えてくださいます。